管理人ikkakuのX5(E53)のダッシュボードは、ナッパレザーに張り替えています。
完全なる自己満足の世界ですが、せっかくなので、ダッシュボードを張り替える場合に気をつけておくと良い点を記しておきたいと思います。
革張りのダッシュボードというのは、BMWのIndividualプログラムで例えるならレザーフィニッシュダッシュボードです。私のX5のダッシュボードは
隅から
隅まで全体をナッパレザーの革張りにし、いわゆるフルレザーにしています。
往年のBMW好きの方から言わせると、これはBMWらしからぬ仕様であるとのことを後に知りました。
BMWといえば「駆けぬける歓び( Freude am Fahren )」ですが、どうやらそれと同時に地球環境に優しい企業という姿勢も、BMWオーナーの心を捉えていたようです。
BMWにふんだんに使われる100%リサイクル可能な合成樹脂素材は、昔ながらのBMWオーナーにとっては誇るべき点の一つだったようです。もちろん昔ながらだけではなく、現在のオーナーにとっても合成樹脂素材が誇るべきポイントと感じている方もいらっしゃることでしょう。そしてそれは環境志向という意味に加え、軽量化という役割もあるかと思います。実際、レザーは重さを伴う素材なので、張り替えショップに行って「天井の内張りをレザーに張り替えて欲しい」と言うと、「プロとしてそれはできない」と断るところもあります。特にSUVのように高さのある車で天井位置をレザーで重くするのは御法度のようです。合成樹脂素材にもそれ相応の役割期待があったのだと、後になって知りました。
そういえば、私が初めてBMWのディーラーに行ったとき、当然「駆けぬける歓び」を思い描いて足を運びました。その期待通り、ディーラー内のテレビでは駆けぬける歓びを謳った映像が流れていました。しかし、テーブルに座ってまず目に飛び込んできたのは、「サステイナビリティ」や「リサイクル」を誇らしげに掲げるフリップでした。随分とエコ推しのメーカーなんだなと、意外に感じたことを今でも覚えています。たしか今でも10年以上連続して延々とダウ・ジョーンズのサステイナビリティ・インデックスに選出されている唯一の自動車メーカーだったかと思います。
さておき、レザーダッシュボードです。
なぜ私がわざわざE53のダッシュボードをナッパレザーに張り替えたのか。それはただ、そのほうが質感が増すだろうなという漠然とした思いです。
ふとしたきっかけでX6Mのハンドルを握る機会があったのですが、その時に一番強く印象に残ったのがレザーダッシュボードでした。X5Mではオプションですが、X6Mでは標準で革張りダッシュボードだったかと思います。X6Mのダッシュを見たときに、「ああ、こういうのって良いな」と思いました。
私のE53は最終的にはシートやダッシュボードやピラー、そしてドア全面などをレザーに張り替えていますが、それぞれ張り替えた時期が違います。中でも、ナッパレザーに張り替えたのはダッシュボードが最初でした。今振り返ってみて、ダッシュをナッパレザーに張り替える場合に気を付けるべき点を挙げるとすれば、次の五点となります。
1.革の種類
2.ステッチ(縫い目)のミミズ腫れ
3.ステッチの量
4.電装関係、特に配線の処理についてのリスク
5.張り替えの時期
まず、1の「革の種類」についてですが、シートのように日常的に負荷がかかり耐久性が求められる箇所ではなく、ダッシュボードのようにただ質感を高めたいという一点において革を張り替える場合、そのショップで一番良い革を選択すべきです。最近は合成樹脂のダッシュボードもシボのパターンも細かく凝ってきています。このような箇所をたとえばシボが粗めのダコタレザーなどに張り替えたのでは、張り替え後の「変わった感」は得られにくいと思います。ショップによっては
アストン・マーティンでおなじみブリッジ・オブ・ウィアー社( Bridge Of Weir )のナッパレザーすらも取り寄せ可能となっています。さらに、カタログに載ってない革を取り寄せられるショップもあります。まぁブリッジオブウィアーの革が標準で取り寄せられるようなショップであれば、もうどのような革でも取り寄せ可能だとは思います。「ランボルギーニのガヤルドと同じ革で!」みたいなノリのお願いもできることでしょう。わざわざダッシュボードを張り替えるからには、縁があったショップで最も上質な革を選ぶのが賢明かと思います。ダッシュは乗るたびに目に入る箇所ですから、日々の満足度という観点からもここの革で妥協しないことは大切なことだと思います。
次に、2の「ステッチ(縫い目)のミミズ腫れ」についてですが、「ステッチ=革張り」というくらいステッチはわかりやすいアイキャッチャーになります。「ステッチがあるからこれは革張りだな」と思ってしまうのが普通の反応です。レクサスGSなどはその反応を逆手に取り、本革ではなく合成皮革(合皮)にステッチを入れたダッシュボードを採用していますが、そういうことをやっている車は非常に稀です。ただ、このステッチもなかなかのくせ者です。ステアリングであれば縫い方は実に種類が豊富ですが、ダッシュボードのステッチはシングルかダブルの二種類が基本です。特に気をつけるべきは、ダブルです。ステッチは革が折り重ねられて縫われる部分ですから、周囲の平面部分より縫い目が盛り上がってしまいます。シングルなら盛り上がるラインが一本で、ダブルなら盛り上がりが二本並んだラインとなります。
このような盛り上がったラインは、「見せるためのステッチ」として有効に機能することもありますが、その完成時の「見せ」を正確にイメージできていなければ、ただの見苦しい「ミミズ腫れ」になってしまいます。例えるなら、体脂肪率3%くらいの痩せぎすの身体に張り巡らされたミミズ腫れの縫合です。もちろん、ステッチ部分を盛り上がらないように周囲と均等な高さで仕上げることもできます。しかしこれはオーダー時に一言添えておかないとやってくれません。ウレタンを下地にして高さを均すなど一手間も二手間も必要な作業なので、何も言っていないと基本的にミミズ腫れとなります。しかもそれが致命的に目立つ箇所のミミズ腫れとなってしまうと、本当に台無しになりかねません。せっかく革張りにしても不自然な箇所でミミズ腫れが走って見苦しくなってしまうのでは、そもそも張り替えなかったほうが良かった、何もやらないほうがまだマシという事態になります。
ステッチを入れる場合には、それがどういう効果を狙ってのステッチかを明確に想像しておいてください。個人的には、例えば
メータークラスター上を前後に走らせる見せるためのステッチは、膨らませたままのほうが良いかなと思います。逆にドイツ車に多い水平基調のダッシュ上で、端から端へと横一文字にオシャレで長く走らせる同じく見せるためのステッチは、膨らませると台無しになるのではないかと思います。もっとも、左右に走らせる場合はそのダッシュの端っこを走らせて見苦しさを回避しているケースが多いようです。
そして3点目の「ステッチの量」は上記ミミズ腫れとも関係してくるのですが、ステッチは多すぎないほうが良いという共通認識がどこかにあるようです。実際のところ、革張りの場合、特にナッパレザーであればステッチなど走ってなくとも見れば一目で革だとわかります。これを合成樹脂と勘違いする人はまずいません。縫い目が多いといかにも革張りっぽくなってかっこよくなりそう、そう考えてしまうかもしれませんが、実際にはステッチが多すぎるとショップの方が言うところの「ステッチのお化け」「フランケンシュタイン」になりかねません。たとえステッチと周囲の高さを均等にしてミミズ腫れを回避した場合でも、ステッチだらけではどこか見苦しい印象を与えるようです。ショップの貼り師の方が何度か「ステッチを増やせば張るのは簡単になるが、いかにステッチを少なくして綺麗に仕上げるかは本当に難しい」と言っていたのですが、私のような素人にはうかがい知れない世界の話となってしまいます。ロールス・ロイスの内装をプロの張り師の方が見ると、驚き尽くしのようです。余計なステッチが何一つなく、巨大な一枚革で全ての曲面部に至ってしわ一つない張り込み。まさに感動もののようですが、そのような世界まで知ってしまうとこちらの世界に戻って来れなくなりそうなので、私は深く首をつっこまないようにしておきます。
続いて4の「電装関係、特に配線の処理についてのリスク」について説明します。実はあまり大きな声では言えないし書くのもためらわれるのですが、ダッシュボードの張り替えが完了したとのことで依頼していたショップに車を引き取りに行った後、いろいろと問題が生じました。まず、カーナビのGPSアンテナが無くなっていたことです。
既に帰路についていた上に遠方だったので引き返すわけにもいかず、おかげで帰宅時は太平洋の上を走って帰りました。カーナビにGPSアンテナって重要なんだなと思いながら、太平洋上をうろついている自車位置を眺めていました。
そしてもっと問題だったのは、配線のショートです。私のE53はセンターコンソール内に家庭用電源を設置しています。これはナビの取り付けもお願いしたオーディオ専門ショップで設置してもらっており、凄く便利で重宝しています。DC/ACインバーターはトランクのサイドにある内張り裏にステーで固定し、電源だけをコンソールボックスに持ってきているので非常にすっきりとして使い勝手も抜群な代物となっています。ただ、ダッシュボードの張り替え時にセンターコンソールは一旦外されて組み直されました。ダッシュボード下部に貼り付けていたナビのスカウターユニットをセンターコンソールへ移動させるためです。しかし、その作業時に配線の噛み込みを起こしたまま組み直されており、太平洋上を帰宅途中、車内に煙が漂ってきました。プラスチックの焦げる匂いで焦りました。急いで車を停め、トランクを空けてすぐに内張り裏のインバーター電源を全部引っこ抜きました。そしてそのままオーディオ専門ショップに持ち込み、見てもらったら噛み込みによるショートが発覚という次第です。ショートした部分を見せてもらいましたが、見事に焦げてました。
オーディオショップの方から言われましたが、電装が原因で車両火災に至る事例はまったくもって珍しくなく、今回も途中で電源を引っこ抜かずにそのまま走っていたら燃えていた可能性大とのことでした。レザーに張り替えてニコニコしながら帰宅中の高速道路上で車両火災では、笑えませんし涙も出ません。
結局ダッシュボード張り替え後にはオーディオショップでまた新たにGPSアンテナを取り付けてもらい、配線も直してもらい念入りにヒューズも設置してもらいました。
ちなみに張り替えによって他にも細かいところで色々とあり、
ドアロックのぽっちり(ドアロックピン)が無くなっていたり、
化粧ケースが割れていたりと。
化粧ケースについて、私はてっきりレザーの厚みで上下から圧力がかかって割れたのかと想像していました。しかし、ディーラーで見てもらったらそんなことはまずあり得ないとのことでした。実際にこの枠を目の前で外して見せてもらいましたが、確かに圧力などかかっている様子はありません。むしろさくっと取り外せています。結局、脱着時の不手際で割られてしまっただけでしょうとのことでした。
そしてディーラーでドアロックピンと化粧ケースを取り寄せてもらい、修復完了です。
という次第で、ダッシュを張り替えた後が何とも大変な日々でした。本当ならダッシュボードに続いてすぐにドアやセンターコンソールの張り替えもと考えていましたが、今回の件でしばらく保留にしてしまいました。餅は餅屋、張り替えは張り替えショップ、電装は電装ショップです。張り替えショップは張り替えについてはプロですが、配線を生業にしているわけではありません。電装ショップのプロの方から見ると、そもそも張り替えショップの行う配線作業には危うい点があるようです。電装ショップの方から強くアドバイスを頂戴しましたが、ダッシュの張り替えについては少なくとも、正規ディーラーからダッシュの張り替えを依頼されているショップを選ばれたほうが良いとのことです。私が依頼したショップはコーティング専門店であり、正規ディーラーからシートやドア内張の張り替えは受注していたショップですが、残念ながら電装が関わるダッシュの張り替えまでは請け負っていないことを後に知りました。
最期に5の「張り替えの時期」についてですが、同じショップで同じ品番の革を指定して一ヶ月間隔で二つの作業を依頼しても、一ヶ月前と一ヶ月後では取り寄せる革の色味や風合いが違ったものになります。これは俗に「ロット違い」と呼ばれる現象です。人間の皮膚が一人一人異なっているように、動物の皮も一頭ごとに違った表情を持っています。まだ鞣す前の原皮の状態で一頭ごとに表情が異なっています。鞣しの行程でもそれぞれの表情を見せ、染色時の色の乗り具合も厳密には同一にならず、結果、風合いに微妙な差異が生じることは避けられません。さらに一ヶ月ではなく数年単位の期間が空いてしまうと、同じ生産者による同じ品番の革であっても、生産者側で勝手に色味を変更してしまっている場合すらあります。これはもうロット違い以前の問題ですが、現実にある話です。さらに例えば、ダッシュボードを張り替えた一年後にドアも張り替えようとなると、ダッシュのほうは既に一年分の経年変化がありますから、ダッシュと全く同一の風合いの革をドアに用意するのはまず不可能となります。つまり、張り替えの時期はずらさずに、張り替えるなら一度に全てやってしまうのが結局はベストな方策といえます。
長くなりましたが、上記5点に気をつけていれば、初めてダッシュを張り替える方でも大きな失敗はしないのではないかと思います。上記はダッシュ以外も色々と一通り張り替えた今になってやっとわかった5点なので、私も当然ダッシュ張り替え時には気づいてない点がありました。そして既に触れた通り、「困ったなぁ…」「参ったなぁ…」となったことも一度や二度ではありません。ただ、大変なことを経験しないと聞けないような話も頂戴できたので、まぁ何ごとも勉強です。
何より、時にすっきり、時に
しっとりとした姿を見せるダッシュボードを見るたびに、やはり張り替えて良かったと実感します。
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